現在行われている就学前の幼児の算数教育の多くは,小学校算数教育の先取り教育です.
幼児学習雑誌,幼児用ドリル集などはいずれも10までの数と数字を学習させ,さらには簡単な足し算・引き算を学ばせます.
幼児が自分から興味を持ち,理解してそれらを学習するのは構いません.
しかし,数や足し算,引き算を完全に理解しているのでないのにこれらを学習させるとテクニックだけを覚えてしまい,論理的思考力の自然な習得が出来なくなります.
数概念は人類が時間をかけて獲得してきたものです.数のない段階や,それまで獲得した数の各段階において,そこまでの数の世界で解決が無理な問題を解く必要に迫られたときに人類が新たな数や概念を考案し,導入してきたのです.
必要に迫られていない段階で,20や30あるいは100までの数を唱える訓練をしたり,数字が書けるようにするのは疑問があります.
論理的に考える能力を身につける前に数詞や足し算・引き算を中途半端に学習すると素直な論理的思考を阻害することがあります.
数や計算はとてつもなく強力な武器です.そのため,数と計算を知ると論理的思考が不十分でも正解が得られてしまいます.
文章問題を解く時を考えましょう.先取り学習で足し算・引き算を既に学習していると,子どもはその文章に対しどの計算を用いるのかをまず考えるようになります.足し算を使う問題か,引き算を使う問題かと考えます.本当は問題を分析して理解し,その思考に合う計算として足し算や引き算を選択する訳ですが,逆になっています.
年長児実験で次のような問題を何題か出しました.
”庭に木の葉が3枚落ちています。風が吹いてきて、1枚飛んでいきました。もう1枚飛んでいきました。今度は,1枚落ちてきました。何枚残っていますか。”
多くの子は無理なく正解していきました(5までわかれば算数はできる).
算数の先取り教育をうけている幼児がなかなか正答にたどり着けず苦労していました.その子たちにしてみれば,”足し算と引き算の混じった計算なんか習っていない!!”,だったのかも知れません.
この問題は足し算や引き算に繋がる前段階の問題で,これらの計算の本質をつく場面設定になっています.二つの数の足し算から,三つ以上の数の足し算,足し算と引き算の混合算をごく自然に理解させる問題です.この種の問題などを幼児期に考えることが論理的思考力開発に有効であると考えます.